初老人の述懐

2016年10月22日掲載

ペンネーム:罣礙老人

 理不尽に国内外のたくさんの人々の命を奪った戦争への反省から採用された平和主義、個人の尊厳、基本的人権の擁護という憲法価値の下、70年近くの人生を、戦争のない、リベラルで個人が個人として尊重され、経済的に豊でなくとも努力すれば高等教育を受けることができ、その努力が報われる社会環境の中で、本当に幸福な人生を過ごしてきた。これは奇跡だったのだろうか。

 2004年、憲法9条の危機が顕在化して9条の会が出来た。しかし、以来12年を経た今日、9条に限らず憲法価値全体が危機にさらされている。否、実質的には憲法が既に壊されている。安保法制による集団的自衛権の是認、武器輸出三原則やシビリアンコントロールの放棄、他国攻撃能力を持つ自衛隊装備、戦闘死を恐れさせないための靖国神社・国会での敬意表明などの戦死顕彰システムの維持充実、教育基本法の改悪、教科書検定制度の活用、国立大学法人化に始まる交付金を使っての学問の自由・大学の自治の弱体化、これを利用しての産軍学共同による武器研究開発、国鉄民営化に始まる労働組合運動の弱体化、その結果としての労働法制改悪による労働者の権利の剥ぎ取り、その結果としての企業利益再配分機能の崩壊、そして、フレキシブルな働き方や女性活躍などの看板の下での非正規雇用やパートタイム雇用など低賃金労働の拡大。受益者負担・家族による共助の思想下での社会保障制度の弱体化、NHK人事や放送法を口実にしての報道への干渉、そして、ついに憲法改正自民党案はその第21条2項に「公共及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。」とまで規定した。これは、もう徹底的に言論の自由を否定して批判を抑圧し、やり直しの道を封じた戦前の治安維持法の再来ではないか。

 事態は知らぬ間にいつの間にか少しずつ変わっている。気付いたときはもう遅いといわれるが、「戦後レジームからの脱却」=「戦前回帰」は、憲法改正で総仕上げの段階となっているようだ。

 私の孫たちはどのような社会で暮らすことになるのであろうか。少なくとも、先人たちが戦争禍の反省から作り上げた日本国憲法価値の下で暮らすことは極めて困難な状況に立ち至っているようだ。これが、私一人の妄想であればよいが。